再生への備忘録53

 昨日、我が家の郵便ポストに、玉川大学から封書が届きました。「第42回ミツバチ科学研究会」のお知らせです。来年は2020年2月15日に開催との事でした。毎年この葉書が来ると、新たな気持ちになります。

 ところで、私がまだサラリーマンをやりながら、趣味で養蜂に取り組んでいた2010年に、高校時代の同級生に誘われて、初めてこのシンポジウムに参加した事をいまでもはっきりと覚えています。その時の特別講演が、その後の私の養蜂哲学の基本となったからです。

シンポジウムの最後に行われたその講演は、「Bees for Development JOURNAL」の編集長であるニコラ・ブラッドベアさん(Nicola Bradbear PhD)によるものでした。養蜂経験が浅いその時の私は、ニコラさんが言う言葉の真意を汲み取る事は出来ませんでしたが、最後の言葉を聞いた瞬間に「来て良かった」と、友人に感謝した事を覚えています。

 英語力に自信がない私は、会場のマイクで彼女に質問をする勇気がありませんでした。あれから10年の歳月が経ち、いまもう一度「Bees for Development JOURNAL」のバックナンバーを読み直しています。

再生への備忘録52

 私は1970年生まれで、第2次ベビーブームの世代です。高度経済成長の真っ只中に生まれ育ち、偏差値教育の洗礼を浴びながら、早くから競争社会の中で生きてきました。一所懸命勉強し、一所懸命働けばいつか幸せになるという、未来の為にいまを犠牲にするという価値観が、世の中に広がっていました。

 40歳になった時、「高度経済成長は結局のところ、人間に幸福や満足感や、社会に対する貢献感をもたさなかったのではないか」という思いが強まり、会社を辞めて、システムからドロップアウトし、好きに生きる事にしました。いまこの瞬間に幸せを感じる事が出来なければ、一体いつ幸せになれるのかと思ったからです。

 「何かおかしい」と感じる人々が増えてきています。お金やステイタスより、充実感や貢献感を求めて、大企業ではなくNPO法人に就職する若者や、脱サラして、社会貢献ビジネスを立ち上げる中高年も増えてきています。Fastな社会からSlowな社会へのシフトダウンがようやく始まりました。

 50歳という人生の節目に、大きな時代の変革期を体感出来て嬉しく思います^_^

再生への備忘録51

 日頃お世話になっている知り合いから山羊小屋を譲っていただく事になり、雪が降る前に小屋を移設しました。冬の青空の中、ユニックで吊られた山羊小屋を眺めながら、いつの間にか空が高くなっていた事に気付き、季節の移り変わりの速さに愕然とした次第です。あれからもう3ヶ月が経とうとしています。

 私の人生は、台風15号以前と、以後の2つに完全に分かれています。台風15号に遭うまでは、いつも自分の人生に不足している何かを探し、それを補う事にエネルギーを使っていました。自分の価値観に執着し、アイデンティティに拘り、好きなものは取り入れ、嫌いなものは排除するという二極の世界でもがいていました。

 物質的に多くのものを失ったと同時に、拘りや執着心も綺麗さっぱりなくなりました。足りないものは何もない事もわかりました。目の前の現実は自分の想念が作り出しているイリュージョンであって、実体はなく、心配する未来など、どこにも存在しないのだという事も伝えられました。台風15号に対しては感謝以外の言葉が見つかりません。

 季節の移り変わりのように人生は短く、人間の一生など、おそらく星が瞬くほどの小さなものなのだと思います。今年も残り1ヶ月。何かと忙しい時期ではありますが、ゆっくり深呼吸をして、自分自身と向き合いながら過ごしたいと思います。

再生への備忘録50

 毎週水曜日は、はぁもにぃ養蜂部の活動日。養蜂を通じて、発達障がい、知的障がいの青年たちの職業自立支援を行なっています。

 昨日は、蜂場周辺の傾斜地に生えているカラスザンショやハマヒサカキ、ネズミモチなどの実生苗木に赤いリボンをつける作業をしました。夏の優良蜜源であるカラスザンショは、幼木の時はバラのような棘があり、野ウサギなどに食べられないように身を守っています。部員たちは棘が指に刺さらないように慎重にリボンをつけていました。

 ところで、花や樹木の名前を知る事は非常に大事です。名前を知ると、その瞬間から、花や樹木が身近なものに感じられ、興味や関心が向くからです。逆に関心がないというのは愛がないという事です。これは人間に対しても同じです。

 部員と山歩きをしていて、まだまだ名前を知らない植物がたくさんあることに気がつきました。

再生への備忘録49

 オーストラリアの哲学者であり、人智学者のルドルフシュタイナーが1923年にドイツで行った「養蜂家のためのみつばち講義」をまとめた文献を読んでいます。この文献は、私がいままで読んできたあらゆる書物の中で最も難しく、理解するのが大変です。シュタイナーの書いた本はどれも、難しいテーマを難しく表現していますが、そういった文章を読む事は思考力を養う最高のトレーニングになります。

 ところで、100年近く前の文献の中でシュタイナーは、「みつばちの分蜂は、新女王が飛び出し、旧女王が留まる」と述べていますが、現代では、これが誤りである事が分かっています。また、シュタイナーに限らず、古い文献には、「事実と違う」事が書かれている事がよくあります。

 私は、20代の時に、シュタイナーの世界観に惹かれ、彼の述べる ことにこそ真実があると確信しながらも、常に過去の文献として批判的に読むことを心がけています。全ては仮説に過ぎないからです。

 いま、私たちが信じている世界も全ては仮説です。遠心分離機が効率的なのも、雄蜂は生殖以外に何もしないのも、みつばちに砂糖を与えるのも、王台を切って分蜂を抑制するのも、全て、現代というこの時代の仮説に過ぎません。いま信じられている事象に対する批判的なアティテュードを失った時点で、真実からは遠ざかり、人間の成長は止まります。

再生への備忘録48

 ミツバチの越冬準備も終わり、シーズンオフとなりました。毎年この時期は、世田谷で西洋ミツバチを飼っている知り合いの養蜂家を訪ねて、ミツバチ談義をするのが私の大事なイベントになっています。

 世田谷の中心部にこぢんまりと作られた養蜂場には、西洋ミツバチの巣箱が2つ並んでいましたが、残念ながらミツバチは居なくなっていました。

 しばらく放置され、紅葉したツタが絡んだ白塗りの巣箱の前には、ヒメジオンが咲いていて、まるで印象派の絵画を見ているようでした。しかしそれは、単純に光が綺麗だとか、ノスタルジックな感性を刺激するとか、そういう類のものとはどこか違っていました。

 ミツバチがいなくなってしまった巣箱を見ながら、私は「なぜいなくなってしまったのだろう」と考えていました。ミツバチがいなくなるのには、必ず理由があります。 切なくも美しい蜂場を見ながら、それでも小さな希望を持って、いつものようにミツバチ談義に花を咲かせました^_^

再生への備忘録47

 養蜂家の秋は早く、気がついたらもう12月になってしまいました。11月中に蒔かなければならなかったヘアリーベッチの播種が後手に回り、結局蒔けませんでした。秋蒔きは諦め、来年の春に蒔く事にします。

 ヘアリーベッチというのは、有機農家や自然農実践者の方にはよく知られているマメ科の緑肥ですが、アレロパシーによる雑草の抑制効果もあるので、耕作放棄地の雑草対策や、グランドカバーにも使われています。また蜜源植物としても優秀で、マメ科特有のクセがないハチミツが採れるので、ここ数年は、養蜂家の間でもよく知られるようになりました。

 ところで、「意図的に」種を蒔く事ができるのは、全ての動物の中で人間だけです。もちろん鳥もフンと一緒に種を落としますし、風も種を運びますが、おそらく意図はありません。その意味で人間は特別な存在です。

 人間が自然に働きかける時、全ては意図的に行なければなりませんが、意図のない行為は徒労に終わる事が多いです。一次生産者にとって、これは非常に大事なテーマです^_^

再生への備忘録46

 山羊が1匹増えたので、蜂場に山羊小屋を増やすべく、山羊小屋見学に行きました。山羊小屋は過去に2つ3つ作ってきましたが、所謂「トラス小屋」の屋根部分をそのまま掘っ立て小屋に転用しているこの三角小屋は、構造がシンプルでローコストで、その上構造強度が高く、山羊小屋として理想形です。

 日頃お世話になっている山羊牧場にあるこの美しい山羊小屋は、建築的にも秀逸で、聞くところによると、数年前にホームレスの方が作ったとの事でした。ディテールを見ると、トタンの仕舞いとか、二本の垂木の真ん中にある柱を掘っ立てにしているところなど、明らかに建築の知識がある人が作った作りになっていて、非常に参考になった次第です。

 たかが山羊小屋、されど山羊小屋。小屋作りは奥が深く、いくつ作っても飽きる事がありません^_^

再生への備忘録45

 蜂場周辺の除草は、現在2匹の雌の山羊(シバ山羊のユキとトカラ山羊のサクラ)が担当していますが、縁あって、雄の山羊(日本ザーネンのゴロー)をもらう事になりました。これで、遺伝的に血統が異なる3匹の山羊の家族ができる事になります。

 ところで、畜産業が抱える問題の一つに、病気や感染症の問題があります。人間にとって都合の良い、同一種による近親交配や人工授精が進んだ事によって、個体の環境適応力が進化せず、免疫力も低下していると思われますが、遺伝的多様性が生き物の進化に与える影響についての学術的な知見は意外と少ないです。

 現在、「生物多様性」という言葉は、少しずつ一般的になってきましたが、環境問題を包括的に捉えるとき、個体の遺伝的多様性を重視する事は、抗生物質に頼らない畜産業を目指す上で非常に大事になってくるのではないかと思っています。

 この冬は、山羊牧場を拡大し、来年の春には、2つの異なる血統がミックスされた、新しい命が生まれている事を期待したいです。^_^

再生への備忘録44

 蜂場に隣接する傾斜地で、烏山椒の実生の苗木を発見したので、赤いテープをつけました。烏山椒は真夏の貴重な蜜源樹木で、柑橘系の美味しいハチミツが採れますが、間伐地や裸地にいち早く芽を出す里山再生の象徴的な樹木でもあります。

 ところで、学校の式典や、日本の教会などでよく歌われている「ごらんよ 空の鳥」という典礼聖歌があります。先日東京ドームで行われた、教皇フランシスコのミサでも歌われていました。

ごらんよ空の鳥 

野の白百合を

撒きもせず 紡ぎもせずに 

安らかに生きる

この歌詞は、マタイの福音書の「空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない」という一文からの引用ですが、実際は鳥も種を蒔く事が分かっています。

 野鳥の多くは、木の実を丸呑みにして、果肉部分を消化し、消化できない種部分をフンと一緒に排出します。フンと一緒に地面へ落ちた種は、やがて芽を出しますが、そういう自然の循環が森を育てているのです。

 余談ですが、ルカの福音書には、「鳥」のところが「烏(カラス)」と表記されています。私が赤いテープをつけた烏山椒の苗木の種は、誰が蒔いたのでしょうか^_^