再生への備忘録44

 蜂場に隣接する傾斜地で、烏山椒の実生の苗木を発見したので、赤いテープをつけました。烏山椒は真夏の貴重な蜜源樹木で、柑橘系の美味しいハチミツが採れますが、間伐地や裸地にいち早く芽を出す里山再生の象徴的な樹木でもあります。

 ところで、学校の式典や、日本の教会などでよく歌われている「ごらんよ 空の鳥」という典礼聖歌があります。先日東京ドームで行われた、教皇フランシスコのミサでも歌われていました。

ごらんよ空の鳥 

野の白百合を

撒きもせず 紡ぎもせずに 

安らかに生きる

この歌詞は、マタイの福音書の「空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない」という一文からの引用ですが、実際は鳥も種を蒔く事が分かっています。

 野鳥の多くは、木の実を丸呑みにして、果肉部分を消化し、消化できない種部分をフンと一緒に排出します。フンと一緒に地面へ落ちた種は、やがて芽を出しますが、そういう自然の循環が森を育てているのです。

 余談ですが、ルカの福音書には、「鳥」のところが「烏(カラス)」と表記されています。私が赤いテープをつけた烏山椒の苗木の種は、誰が蒔いたのでしょうか^_^

再生への備忘録43

 昨日は一年に一回の地元のバザーで、家族で参加しました。特に知られたバザーではありませんし、規模も小さく、売り上げも大した金額にならないのですが、子供や中高生の参加が多く、いつも元気をもらえるので毎年参加しています。

 はちみつの販売から売り上げの管理は娘(中1)に任せ、妻は焼きそばの屋台、私は知り合いが作ったサツマイモを配ったり、地元の幼稚園の先生に油を売ったりしていました。

 娘は今年中学生になり、はちみつの販売も板について来ました。商品ポップもやや抽象的になり、大人との対話の中で生まれる抽象的な思考にも耐えられるようになってきた気がします。子供の成長は早いです。

 ところで、世の中のデジタル化が進み、消費されやすいように整理された情報ばかりを扱っていると、抽象的な思考力を養う事が出来ず、社会が今後、どのように変化してゆくかをイメージする事が出来なくなります。そういう残念な大人こそ、ミツバチと触れ合ったり、世代を超えてさまざまな人と対話するなど、まだ整理されず、複雑でニュートラルな体験をすべきかと思います^_^

再生への備忘録42

 「養蜂」という言葉を国語辞典で調べると、「はちみつやミツロウを取る為に、ミツバチを飼育する事」と書いてあります。市販されているほとんどの国語辞典を調べましたが、どれも同じでした。しかしながら、この答えは、間違いであるだけでなく、的外れです。

 養蜂というのは、英語ではbeekeeping と言いますが、あくまでも、みつばちを養う事、一歩踏み込んで言えば、みつばちのコロニーを持続的に養ってゆく事と言う意味で、養蜂の目的は、読んで字のごとく、「蜂を養う事」以外の何物でもありません。経営の目的が、金儲けではないのと同じです。

 みつばちのコロニーを持続させることだけを考え行動した結果、余剰のはちみつがもらえるだけであって、はちみつを取るためにミツバチを飼育しているわけではありません。これは非常に大事な概念です。

 ところで、与える事よりも、得る事が人生の目的になってしまっている利己的な人には養蜂はできません。2008年から2009年にかけて始まったCCD(蜂群崩壊症候群)の本質的な原因は、同時期に起こったリーマンショックと同様、人間の利己的な行動が招いた結果であることは火を見るよりも明らかです。

再生への備忘録41

 昨日は「はぁもにぃ養蜂部」の活動日。先週に引き続き、1年間使った巣箱をガスバーナーで焼く作業です。ただ、部員たちの中には注意欠損や過集中という特性を持っている人もいるので、時々巣箱を焼き過ぎて、燃えてしまいます。そんな時は、「巣箱が燃えているよ」と指摘すれば大丈夫。彼らは息を吹きかけて火を消します。

 ところで、はぁもにぃ養蜂部の部員のように、ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)という特性を持った人というのは、その特性に関して周囲の理解が必要なだけであると、「広汎性発達障害の子ども達」(中京大学 辻井正次教授)という本に書いてありましたが、深いところで共感した事を覚えています。

 世の中には、間違った理解や、誤解されたまま一般化してしまった情報がたくさんありますが、「自閉症」や「発達障害」という言葉もその一つだと思っています。辻井正次教授が書いたこの本は、人間理解に関心があるすべての人に読んでもらいたい名著です。

 特定非営利活動法人はぁもにぃでは、現在、台風被害から復興するための寄付を募っていますが、沢山の方々からの温かいご支援をいただいています。この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思います。どうもありがとうございます。

再生への備忘録40

 坊ノ内養蜂園の蜂場には、小さなヤギ牧場があり、現在ユキ(シバヤギ雌)とサクラ(トカラヤギ雌)の2匹が同居しています。日中は蜂場周辺の除草を担当してもらっています。

 ところで、先日知り合いからザーネン種の雄を譲渡したい人がいるとの情報があり、昨日隣の村まで見に行きました。ヤギを見に行くだけで、ワクワクするのは何故でしょうか。

 ザーネン種の雄は、以前自宅の裏庭で飼っていた事がありますが、身体も大きく、発情すると独特の匂いがあるので、ヤギに慣れていない子供や女性は、不安を感じるかもしれませんが、私的には、迫力があって大好きです。もちろん、除角などしません。

 昨日面会した雄ヤギは、性格も人懐こく穏やかで、人間で言うところの「マスオさん」的イメージ。もし、いただく事になったら、ユキの尻に敷かれる事は間違いなさそうです^_^

再生への備忘録39

 昨日は、アフリカで10年間養蜂支援を行っている方とお会いして、現地の養蜂事情と、アフリカでいま懸案となっている問題について、意見交換をしました。現地では、まだ家畜化されていない「アフリカンビー」を、極めてプリミティブなやり方で飼育しており、今後近代化の道を歩むのか、あるいは、それとはまた違った方法で活路を見出してゆくのかの岐路に立たされている気がしました。

 一方で、先進国で産業革命以降脈々と続いてきた近代養蜂は、遠心分離機による効率化と、人工巣礎の恩恵で、ハチミツの生産量は飛躍的に伸びましたが、近親交配や砂糖給餌、抗生物質の使用によってミツバチの免疫力が低下し、病気やダニといった新たな問題が生まれています。また、地球規模で進む環境破壊によって、慢性的に蜜源花粉源が不足しているのは、先進国も発展途上国にも共通しています。

 プリミティブな自然放任型の養蜂と、効率的な近代化養蜂の中庸を行く、オルタナティブはどこにあるのかを模索してゆく事が活路になる気がしています。

 ところで、この方の事務所は、調布市にあるのですが、事務所のすぐ隣には、武者小路実篤記念公園があります。100年以上も前に、武者小路実篤が提唱した世界観は、ワークシェアリングや、ライフワークバランスといった新しい概念を生み出し、現代に生きています。帰宅して、以前から気になっていた武者小路実篤の本を一冊購入しました。

再生への備忘録37

 我が家には二匹の犬と六匹の猫がいますが、仕事場には数十万匹のミツバチと、二匹の山羊もいます。生き物に囲まれて生活するのは、私達家族にこれ以上ない幸せをもたらしてくれますが、時々問題も起こります。昨日は愛犬ジミが脱走し、数百メートル離れたところにある用水路に滑落して、ヘドロの中で溺れかけていたところを魚屋さんに発見され、急いで救出に向かいました。

 子育てや養蜂や、会社の経営にも言える事ですが、常に意識が向いていないと相手は必ず問題行動を起こします。まるで「私にもっと意識を向けてください」と言っているかのようです。自分の現実は全て自分の意識が創っています。

 前を見れば前が創られ、後ろを見れば後ろが創られます。見るから見えるのであり、聞くから聞こえるのです。見えないのは見ようとしないからです。与える事を意識すれば循環の世界が創造され、得る事しか意識できなければ、搾取の世界が創造され、自分は搾取の世界に身を置く事になります。

 楽しみにしていた、年に一回の娘の合宿コンクールをキャンセルしてジミを無事救出し、ヘドロだらけになった体を洗ってやって、我が家はいつもの日常に戻りました。

再生への備忘録36

 晩秋になると、蜂場の至る所で盗蜂が起こります。盗蜂というのは、強群のミツバチが、弱群のミツバチのコロニーを襲って貯蜜を奪うという現象です。

 盗蜂というのは実に厄介で、蜂場の中で、AからB、CからDと蜜が移動しているだけで、蜂場のGDPは全く増えないどころか、盗蜂で起こった蜂群同士の戦争で多くのミツバチが犠牲になったり、最悪いくつかの蜂群を失う事になります。また、一度「盗む」味をしめた蜂群は、盗蜂癖が付き、次から次へと盗蜂を繰り返します。盗蜂癖はなかなか治りません。

 ところで、「純粋理性批判」という、カントが書いた難しい本がありますが、カントは自身の平和論を語る中で、ミツバチの盗蜂を引き合いに出しながら、こう語っています(少々文書を変えています)「盗蜂という現象は、人間間の戦争のように、他民族を併合して自らを増強しようとするのではなく、策略や暴力を用いて、他の蜂群の労働の成果を自らの為に利用しようとするものである」と。

 一方、私の目に盗蜂は、併存したミツバチの国家の富が自然淘汰によって均一化され、また、蜂場の巣箱が適正群数に向かうための単なる自然現象にしか見えなかったりします^_^

再生への備忘録35

 毎週水曜日は「はぁもにぃ養蜂部」の活動日。昨日の活動には、私たちの活動を一緒に体験して、はちみつを通して福祉活動を社会に発信していきたいという男性2人が、横浜からはるばる海を越えてやって来てくれました。普段は横浜みなとみらいでスーツを着て働いている、「普通のおじさん」です^_^

 昨日は、台風で転がって汚れてしまった巣箱の蓋や、蓋が飛んで雨水が入り、ミツバチが全滅してしまった巣箱をガスバーナーで焼いて炭化させ、虫が湧いたりカビが生えないようにリフレッシュして、来年のシーズン備えるという、地味ながらも大事な作業をしました。

 顔や作業着が炭で真っ黒になって1日の作業が終わり、ボランティアで来てくれたおじさん2人に部員一同お礼をした時、珍しく海の向こうに綺麗な虹がかかりました。

 ところで、台風15号で被災した後から、私は、自分が得る事よりも、自分以外の誰かに与える事を優先して動いている人と出会うようになりました。見返りを期待することなく、自分以外の誰かに与え続ける事で、社会に幸せの循環が生まれ、いつかミツバチのような成熟した社会が実現すると信じられるようになった気がします。

再生への備忘録34

11月も中旬に入り、朝晩冷え込むようになって、蜂場にやってくるスズメバチもめっきり少なくなりました。
昨日は少し風がありましたが、スズメバチ防御用のネットを外し、全ての群を内検しました。

坊ノ内養蜂園の蜂場のミツバチには、大きくイタリアン(オーストラリア)とカーニオラン(スロベニア)という2種類の血統がありますが、その他に、雑種交配した「ミックス」も存在します。地理的に離れた2つの血統を自然交配させ、群に遺伝的多様性を持たせる事は、これからの環境変化に対応できる「強い蜂」を作ってゆく上で大事なテーマだと思っています。ところで、一昨年に導入した純血のカーニオラン群は、今回の台風15号と、その後にやってきたオオスズメバチの攻撃で全部ダメになっていまいましが、雑種交配第1世代の女王の群(写真)は、なんとか生き抜いて現在4枚群。産卵圏に乱れなく、貯蜜も十分あり、このまま越冬させます。

被災以降続いていた深い霧も少しづつ晴れて来ました。